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京都地方裁判所 昭和37年(ワ)856号 判決

原告

橋本良造

代理人

酒見哲郎

被告

和田孝英

代理人

宮永基明

主文

被告は、原告に対し、金一一七、五〇〇円を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

本判決は、原告が金四〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮りに執行できる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、被告は、昭和三七年九月一四日、訴外川口新治より、その所有の別紙目録記載の不動産(本件不動産)を代金五、五〇〇、〇〇〇円で買受け、所有権取得登記も受けた。

二、右売買は、京都府知事の登録を受けた宅地建物取引業者である、原告と訴外藤本周次が、共同して、なした媒介行為によるものである。

三、よつて、原告と藤本周次は、被告に対し、京都府宅地建物取引業者の報酬額に関する規則に則り、金二三五、〇〇〇円の報酬金債権を取得した。

四、本件不動産の売主、買主(被告)は、それぞれ、原告、訴外藤本周次に、媒介を委託し、原告は、被告より、媒介の委託を受けていない。

五、右のような場合でも、原告は、被告に対し、報酬金債権を取得する。

六、仮りに、そうでないとしても、被告は、本件不動産売買契約締結の際、原告に対し、報酬金を支払う旨特約した。

七、よつて、原告は、被告に対し、右報報酬金一一七、五〇〇円の支払を求める。」

と述べ、被告主張の債務免除の抗弁事実を争つた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の事実中、一、二、四の事実は認めるが、その余の事実は争う。

二、被告は、原告に対し、媒介の委託をしていないから、報酬金を支払う義務はない。

三、被告は、本件不動産売買契約締結当時、藤本周次に対し、報酬金五〇、〇〇〇円を支払い、同人より、その余の報酬金債務の免除を受けた。」

と述べた。

証拠<省略>

理由

原告主張の事実中、一、二、四の事実は、被告の認めるところである。

宅地建物取引業者の行なう宅地・建物の売買等の媒介業務は、常に商行為となり(商法第五〇二条第一一号、)その主体も商人となるが(商法第四条)、媒介の対象となる行為が少なくとも一方当事者のために商行為となる場合でなければ、商法上の仲立営業とはならない(商法第五四三条)。

しかし、宅地建物取引業者の行なう媒介行為に、仲立営業に関する商法の規定を類推適用し、宅地・建物の売買の媒介行為をした宅地建物取引業者は、委託を受けていない売買当事者に対しても、報酬金債権を取得する、と解するのが相当である(商法第五五〇条第二項)。けだし、仲立営業に関する商法の規定は、商人の行なう媒介行為の性質に由来するものであるからである(最高裁判所昭和三六年五月二六日第二小法廷判決、民集一五巻五号一四四〇頁は、「宅地建物取引業者は、直接の委託関係はなくても、業者の介入に信頼して取引するに至つた第三者に対しても、信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある。」と判示している)。

したがつて、売主、買主より、それぞれ、媒介を委託された宅地建物取引業者甲、乙が共同して、宅地建物の売買の媒介行為をした場合、買主より委託を受けていない甲も、買主より委託を受けた乙とともに、買主に対し、報酬金債権を取得し、当事者間の関係等より考えて、甲の報酬金債権と乙の報酬金債権とは、連帯債権関係(甲、乙の持分は、特別の事情のないかぎり、平等)にある、と解するのが相当である。

宅地建物取引業法第一七条により都道府県知事の定める報酬額は、宅地建物取引業者の受けうる報酬の最高限度額であるが、都道府県知事が定めた金額等より考えて、宅地建物取引業者は、特別の事情のないかぎり、都道府県知事の定めた報酬額の報酬金債権を取得する、と解するのが相当である。

したがつて、特別の事情の認められない本件において、原告と藤本周次が被告に対し取得すべき報酬金債権の額は、昭和二八年四月一日京都府規則第二五号(第二条、売買の媒介の場合における報酬額は取引の当事者双方につき取引額を次の各号に区分し当該各号に定める率をそれぞれ乗じて得た金額の合計額以内とする。二百万円以下の取引金額について百分の五、五百万円以下の取引金額の二百万円をこえる部分について百分の四、五百万円以上をこえる取引金額の五百万円をこえる部分について百分の三)に則り、金二三五、〇〇〇円(特別の事情が認められないから、両名の持分は平等)である。

<証拠>によれば、被告主張の三の事実を認めうる。

前記設例の場合、甲、乙の買主に対する報酬金債権は、連帯債権関係(甲、乙の持分は、特別の事情のないかぎり、平等)にあり、乙が買主に対してなした債務免除は、乙の持分についてのみ効力を生じ、甲の持分については効力を生じない、と解するのが相当である。

したがつて、藤本周次のした債務免除は、原告の持分である金一一七、五〇〇円については効力を生じない。

よつて、原告の本訴請求を正当として認容し、民事訴訟法第八九条第一九六条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)

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